宇宙活動の生態史観

「宇宙活動の生態史観――各国の宇宙政策を理解するために(その1)」

5.「第一地域」の宇宙活動

 では旧世界の西に位置する第1地域、すなわちイギリスやフランスにおける宇宙開発には、どのような傾向がみられるか。EU諸国のうち欧州宇宙機 関(ESA)に参加しているのは、19カ国である。中心となっているのはフランスだ。科学探査分野も推進しているが、宇宙産業の育成と、アリアン・ス ペース社による衛星打ち上げビジネスに力点をおいているといってよい。かつてボーイング社が占めていた大型旅客機の世界市場を、いまでは欧州協同企業 のエアバス社が二分するまでになったように、アリアン5ロケットを有するアリアン・スペース社は、アメリカの企業をおさえて世界の衛星打ち上げ市場の 半分を占めるまでになっている。

 東の第1地域である日本の場合はどうか。大づかみに表現すると、西の第1地域とは対照的だ。アリアン・スペース社の成功に象徴されるように、 ESA参加国は宇宙産業の育成と、ビジネスの拡大に力を注いできた。いっぽう日本は、「かぐや」による月面探査や「はやぶさ」の小惑星探査とサンプ ル・リ ターンや、「こうのとり(HTV)」にみられるように、科学・技術の分野には大きな足跡を刻んできた。しかし宇宙産業やビジネスの分野は、お世辞にも 進んでいるとはいえないようだ。

 梅棹さんは第1地域の特徴を、「暴力の源泉からとおく、破壊からまもられて、中緯度温帯の好条件のなかに、温室そだちのように、ぬくぬくと成長す る」と評している。ゆえに日本と西ヨーロッパの国は、似たような条件にあったとしていた。たしかに生態史観的にはそのとおりだったが、宇宙開発という 領域が誕生してからは、第1地域の西と東に、大きな差異が生じている。

 日本の宇宙開発は、いうまでもなく1955年の東大生産技術研究所・糸川英夫による「ペンシル・ロケット」試射にはじまっている。そのころ西ヨー ロッパでは、イギリスが核実験に成功し、続いて核兵器搭載ミサイルの開発に取り組んでいた。フランスも、数年遅れて着手している。そして両国とも核兵 器保有国となり、やがて弾道ミサイルの技術を獲得した。ちょうど米ソが、スプートニク・ショックにはじまった宇宙開発競争を展開しているころである。 イギリスもフランスも表立っては競争には加わらなかったが、ミサイルの開発には積極的だった。両国の宇宙開発の基盤はこのときに形成されたといってよ いだろう。

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